2026年7月21日、マイナンバーカードで本人確認するウォレット「マイナウォレット」が正式リリースされて、誰でもダウンロードできるようになりました。
中身を見てみたら Ethereum の Account Abstraction ―― 口座そのものをプログラムにする仕組み ―― で、普段はパスキーで操作して、鍵を失っても公的個人認証で復旧できる、という作りでした。
これ、Cardano でもできるのかな?と思って調べ始めた、その記録です。
先に言っておくと、技術的にはできるみたいでした。部品は揃っていて、近い実装も既にあった。
ただ事業として成立するかは別の話で、そこは結局よく分かっていません。
途中で「これは違ったな」となった主張は、消さずに残してあります。
なくしても、戻せる。
誰にも、見られない。
勝手に、戻されない。
目指す形。ただし現時点で近いのは 1 行目だけで、2 行目は当分渡せない。
いまのウォレットは鍵の形から住所が決まるので、鍵を変えると別の家になってしまう。だから一生変えられないし、なくしたら終わる。
そこを、ふつうの家にする。鍵をなくしたら、錠前だけ交換する。住所も中身もそのまま。
判断材料になった出来事が、ほぼ 6 日間に集中している。
先週なら、この話は成立しなかった。部品が揃ったのが今週で、競合が出たのも今週だった。
Cardano には既に、「Google でログイン」のボタンで開くウォレットが動いている(zkFold)。24語は出てこない。Google が「本人です」と発行した署名を、チェーンが自分で確かめている。手数料 約1.23 ADA という実測値まで出ている。
zkFold Google が本人確認 → 署名 → チェーンが検証 → 解錠
我々の案 役所が本人確認 → 署名 → チェーンが検証 → 鍵を交換
↑ 差し替えるのは、ここだけ
しかも都合のいいことに、Google が出す署名も、マイナンバーカードが出す署名も、やり方が同じ(RSA という方式)だった。読み取る機械をそのまま使い回せる。
足りないのは技術ではなく、標準化と資金だった。
zkFold は技術として面白い。ただし復旧の根拠が Google アカウント一点になっている。壊れ方が二つある。
ひとつ、自分が締め出される場合。BAN、乗っ取り、死亡。Google の判断に不服を申し立てても、通るかは向こう次第で、争う手段が実質ない。
ふたつ、Google の都合で壊れる場合。Google は署名鍵を定期的に入れ替える。同種の実装は README で「鍵の入れ替えに追随する仕組みが無く、手動移行が要る」と明記している。利用者が何もしなくても、向こうの都合で経路が切れうる。
Tangem のカード 後ろに何もない → 全部失えば終わり zkFold の Google 後ろにアカウントDB → 追い出されたら終わり 公的個人認証 後ろに人間の登録 → 追い出されようがない
Google が持っているのはアカウントの台帳。消せるし、止められる。
役所が持っているのは人間の登録。カードは失くせても、あなたが日本に住んでいる事実は消せない。だから何度でも再発行できる。
「役所のほうが便利」ではなく、追い出せない根拠に紐づけられるのはこの方式だけ、という構造の話になる。
なお鍵の入れ替え自体は公的個人認証でも起きる(認証局は4年ごとに更新)。ただし証明書は10年有効で、世代が公開されている。運用の重さが桁違いに違う。
そして zkFold 自体もまだ testnet で、本番で使われた実績はない。
guardian が操作鍵を差し替えられる設計は、法的に「暗号資産の管理」にあたる可能性がある。そうなると登録が要る。
もう一つ。guardian に事業者を置くなら、互いに独立していないといけない。子会社に持たせる形は使えない。
そして、7/18 に手に入ったものには寿命がある。次期マイナンバーカードは、署名のやり方をいまとは別の方式に変える(RSA → ECDSA P-384。デジタル庁の最終とりまとめ案、提供は 2029 年度目標)。Cardano はその新しい方式を読めない。パスキーが使う方式(P-256)も、同じく読めない。
この二つは同じ系統の方式なので、ひとつの提案にまとめられる可能性がある。そして「2029 年までに無いと繋がらない」という期限は、標準化を通す論拠としてかなり強い。ただし現状、誰も提案していない。
当初は「本命は自治体が配るとき」と考えていた。撤回する。製品も実績もない状態で、既に出荷し、認定を持ち、自治体との関係も資金もある事業者と正面から競争する勝ち筋は薄い。
「チェーンが違うから競合しない」も誤りだった。導入する側は「どのチェーンか」から考えない。「マイナンバーカードを使ったウォレットを入れたい、どの業者か」から始まる。その時点で並べられる。
残るのは、「国に全部見られるのでは」と思って離れた人と、相続・終活。ただし前者が欲しい「見られない」は当分渡せず、後者は死亡の証明・遺留分・成年後見・法的有効性がいずれも未確立で、競合がいないのは、誰かが割に合わないと判断した結果かもしれない。
Cardano に穴がある ← 事実。裏取り済み その穴を埋めれば事業になる ← 仮説。未検証
製品を売る前に、技術的に何が可能で、何が不足しているのかを共有する。それが済んでいれば、必要に応じて CPS・CIP・参照実装へ進める。順番はこちらが先になる。
法律の論点(05)は、国に直接聞ける制度がある。近い前例は26日で回答が出ていた。照会書のたたき台は用意してある。設計を固める前に出すほうがよい ―― 照会したあとに設計を変えると、回答の効力が及ばないので。
そして手を動かす側は、何も待たなくていい。最初の一歩(preprod で鍵を交換できる validator を書く)には、カードも役所も事業者も関係しない。設計メモに、そのまま書き起こせる粒度で置いた。